2026.11.01
第1回『実務で役立つ 労務コンプライアンス解説シリーズ』

【労務DDのプロが解説】労働時間管理の落とし穴!IPO・M&Aの現場から学ぶ実務ポイント
IPO(株式上場)準備やM&Aを検討する企業において、労務デューデリジェンス(労務DD)で最初に注目すべきなのが「労働時間管理の適正さ」です。
近年、クラウド勤怠システムの導入が進む一方で、「法令/ガイドライン」と「社内ルール」、あるいは「記録」と「実態」のズレが、後から重大な未払い賃金リスクとして露呈する事例が増えています。
本記事では、労務DDの現場視点から「労働時間の判断ポイント」「上場審査で求められる客観性」、そして「M&Aで重視される運用の属人化リスク」について要点を絞って解説します。
1. 「労働時間」の盲点:自社ルールによる「切り捨て」に注意
労働基準法上の労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。明示的な業務指示はもちろん、準備や片付けなど「やらざるを得ない状況」にある時間も原則として労働時間と判断されます。
特に実務上、見落とされやすいのが以下のポイントです。
- 始業・終業前後の業務付随時間:
作業着への着替え、清掃、朝礼、機械の立ち上げ、参加必須のある研修など、義務付けられている時間は労働時間に含まれます。 - 始業前/終業後の「切り捨て」処理:
「8時45分に出勤打刻しても、集計は始業の9時スタートにする」といった自社ルールによる時間の切り捨ては、未払い賃金のリスクに直結します。 - 〇分単位の「切り捨て」処理:
同様に、「15分未満は切り捨てる」といった自社ルールは、未払い賃金のリスクに直結します。
2. 上場審査(IPO)で問われる「客観的記録」の重要性
IPO審査における労働時間の把握レベルは年々厳格化しています。
- 客観的記録との突合:
いつでも打刻あるいは打刻修正できる環境ですと「自己申告」とみなされる傾向があり、PCログや入退館記録といった改ざんできない客観的な記録との突合が重視されます。 - 乖離(かいり)理由の確認:
打刻時間とPCログにズレがある場合、その理由確認や、労働時間記録の修正が求められます。 - 1分単位の把握:
労働時間は1分単位で把握することが原則であり、15分や30分単位での切り捨て処理は認められません。
3. M&Aで問われる「勤怠集計の属人化」リスク
IPOが「法令通りの管理ができているか」を審査するのに対し、M&Aでは「買収後に滞りなく組織・業務を回せるか(PMI視点)」もポイントとなります。
- 運用フローの属人化:
勤怠の締め作業や未打刻の確認を特定のベテラン社員1人の手作業に依存している場合、買収後にその社員が退職してしまうと、労務管理や賃金計算が滞るリスクがあります。 - 事業譲渡時の引き継ぎ:
事業部門だけを譲り受ける場合、管理部門の集計担当者が引き継がれず、「管理体制が機能しなくなる」リスクを想定しておく必要があります。
【POINT まとめ:労働時間管理を適正化する3つのポイント】
- 1分単位での記録を徹底し、かつ切り捨てない:
労働時間の端数処理を見直すとともに、打刻ルールを周知徹底する。 - 客観性を担保できる管理体制を整える:
PCログや入退館記録を活用し、打刻記録の真正性を日常的に確認できる仕組みを作る。 - 集計業務の仕組み化を進める:
特定担当者のノウハウに依存せず、組織として運用が回るフローを構築する。
この記事の監修・解説
吉田 慶太 (みらいコンサルティンググループ シニアコンサルタント/社会保険労務士)
北海道弟子屈町出身。弘前大学卒業。事業会社ならびに社会保険労務士法人を経て、 みらいコンサルティンググループへ入社。 毎年複数の株式上場を支援するとともに、北海道をはじめとした地域中小企業の労務管理体制、人事評価制度の構築、社員育成など、 「ヒト」 を軸として企業の経営を支援している。
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