人的資本経営

2023.10.20

【MIRAI HR TIPS】「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」への対応のヒント

 2022年9月に日本政府より、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表されました。そこでは、企業には事業活動を行う主体として、人権を尊重する責任があること、そして企業とは規模や業種を問わず全ての企業を指すことが示されています。

 「人権」というテーマは意味が広範に渡るため、ともすれば茫洋としており、今日において危機感を持って捉えている中小企業は少ないかもしれません。しかしながら、実は中小企業でもこの人権課題というものは至る所に存在しており、これらの対応をすることで、企業の抱える経営リスクの削減にも繋げることが可能となります。

 例えば、人権というテーマに関して考えられる経営リスクとして、人権侵害を行っている企業で製品やサービスの不買運動が発生するリスクや、投資先としての評価の降格、人材の採用等に影響が出ることが考えられます。その他、人権侵害を理由に取引先から取引を停止される可能性は経営における重大なリスクとなり、人権保護に関する取組みは、これらの要素を未然に防ぐ効果も期待されます。

 つまり、人権尊重に向けた取組みは、企業がその責任を果たすという点だけではなく、結果として、経営リスクの抑制という点でも大きな意義を持つこととなります。

 しかしながら、この「人権」という大きなテーマに対して、実際に企業はどのような取組みを行えば良いのか、何に重きを置くべきなのかがわからない、という声をお聞きするのも事実です。

 そこで、本日は特に中小企業が人権デュー・デリジェンスの取組みを行うにあたり、重要となるポイントを3つご紹介致します。

 まず1つ目のポイントは、「企業の人権尊重への取組みにおける考え方」についてです。企業が人権デュー・デリジェンスへの取組みを行うにあたり、極めて重要とされるのが「経営陣によるコミットメント(約束)」になります。企業が人権尊重に関する取組みを行う場合、その活動は採用、調達、製造、販売等を含む企業活動全般において実施が求められます。

 つまり、特定の一担当部署が方針を決定し、推進していくのでは不十分であり、会社全体での取組みが必要になるということです。そのためには、企業のトップを含む経営陣が人権尊重の取組みを会社全体で推進していく方針を定め、積極的、主体的に関与していく事が肝要です。

 2つ目のポイントは「ステークホルダーとの対話」に重点を置く事です。

 上述の通り、全ての企業には規模や業種等に関わらず、人権尊重の責任がありますが、企業ごとに抱える人権課題、負の影響は異なる場合が多くあります。

 そのため、それぞれの企業が各ステークホルダーとの対話を行いながら、そのプロセスを通じて企業が抱える人権課題を洗い出し、その原因を理解した上で取組みを行う事で改善を容易にするとともに、ステークホルダーとの信頼関係の構築を促進する効果が期待されます。取引先、労働者、労働組合等、様々なステークホルダーとの対話を積極的に行いながら、負の影響が生じ得る人権の種類や、想定される負の影響の深刻度等、実態を反映した人権方針の策定が期待されます。

 3つ目のポイントは、「脆弱的な立場にある個人への配慮」です。

 人権デュー・デリジェンスへの取り組みを行うにあたり、社会的に弱い立場に置かれる個人等については、より細かい配慮が必要となります。例えば、女性であることのみを理由とした賃金差別や、外国人であることのみを理由とした差別的処遇というのは許されるものではありません。残念ながら日本では一部の外国人技能実習生に対して、強制労働が行われていると指摘されており、日本政府に対しても、企業に対する責任追及をしていないとの批判もあがっています。これらのように、脆弱的な立場にある個人等の人権課題については、より細かい配慮が必要となるため、ヒアリング等を通した調査を行い、自社が現在抱えている人権課題をより詳細に特定した上で取組むことが重要です。

 以上の通り、人権デュー・デリジェンスへの取り組みを行うにあたっては、

①経営陣の主体的な関与

②ステークホルダーとの対話

③脆弱的な個人への配慮

まずは上記3点を意識して取組んで頂けますと、より適正な人権尊重になると考えられます。

人権の状況は常に変化していくため、ステークホルダーとの対話を通した人権課題の特定は定期的に繰り返していく必要があります。事業環境の変化や、新たな取引関係に入る場合など、その変化の状況も様々です。人権デュー・デリジェンスへの取組みは、その範囲が広いが故に、その1歩が踏み出しづらい領域ではあるかと思いますが、国内外における人権意識の高まりを見ても、中小企業の今後の存続における重要な経営課題になるとご認識頂いた上で取組まれることをお勧め致します。本日の内容が、皆さまのお役に立つと幸いです。